目指すもの
今後いけばな界に求められるものは全く新しい発想である。
一つ目は正面からではなく全方向から見れる花形の完成。
元来いけばなは,そのもの単体では不完全な花形であり,床の間空間において掛け軸と一体で初めて完結性をもつ花態である。つまり明治、大正と床の間から飛び出した盛花を含めそれ以前のいけばなは,壁面を背景にしなければ飾れないことを意味している。しかしフラワー・デザインは,いけばなに欠けている造形的完結性・多面性を持ち合わせており,それはダイニングキッチンの設置が主流である現在,空間の中心を占めるテーブルに花を飾るにあたり,全方向からの鑑賞に対応できる多面性をもった造形物であることから,現代居住空間を飾るに有効な挿法であることが確認できよう
二つ目は贈り物としていけばなが価値を発揮させるもの。
フラワー・デザインは「飾る」機能に加え,ブーケやコサージュといった,「贈る」という機能を持ち合わせている。第三者に贈ることを前提にアレンジなどをつくる行為は,自らの心中にあるメッセージを花に託して伝えるというコミュニケーションが成立する。色には香りと共に心理に働く作用をもち,体調を整えたり感情を変化させる能力がある。香りには気分の高揚や沈静作用などの効果がある。また花の丸みを帯びた形には安らぎを覚え,新鮮な花からは体力を回復させる「気」が発せられている。これらの能力をある目的に向けて,(たとえば一日の疲れをとり熟睡することを目的とするなど)花をとり合せることができよう.。.すなわち今後はいけばなを移動可能にする方法の開発が求めらる。
三つ目は花の持つ”癒し”の表現方法。
さらに新しい“いけばな”は飾る機能や贈る機能にとどまらず,現代人の心身を「癒す」ことに効果を発揮すると期待できる。昔からの“いけばなという行為には,ストレスに溢れた現代社会において最も求められるキーワードである「癒し」のエッセンスに満ちていることが今明らかになった。花そのもの,およびいけばなという行為には癒しの効用がある。高齢者が花に触れることで癒され,手先を使うことによってぼけ防止を期待し,教室に集うことによって,花を中心に「おしゃべり」をするというコミュニケーションが成立し,誰かと話すこと,コミュニケーションをとることで日常生活のカタルシスとなることが期待できる。
四つ目はいけばなを育てるということ
いけばなにもフラワー・デザインにも,「育てる」という機能は内在してはいない。しかし切花に全く成長する要素がないではない。現実に菊も開き、ゆりも開く。枝物も土に埋め返してやれば根を張り大きく成長する。いずれ育てるといういけばなの要素も試みられると考える。
参考文献 いけばなにおける沈滞要因の考察 今 井 孝 司